AI音楽の類似性は、完璧なチェックはできません。でも、クリエイターとしての誠実さを示せますから、チェックと記録には意味があります。
今回は自身でパッとできる最低限のAI音楽類似性チェック方法と、類似性を巡って行われている議論について、文化庁の見解などをベースに解説します。
配信したい楽曲がアーティストの楽曲に似ているかどうかについて、通常はディストリビュータやプラットフォームの事前チェックに任せておいて良いでしょう。でもある程度は配信前に、クリエイター自身がチェックしておくと憂いなしかも知れません。
いくまささんいくつになっても甘えん坊でいたいんですがね。
この記事でわかること
・AI音楽ってそもそも著作権ある?類似性リスクは?
・どのツールを使えば完璧にチェックできる?
・類似性って手軽にチェックする方法ないの?
・透明性がブランディングになる理由って?
類似性の法的判断について詳しく知りたい方は次の「AI音楽の類似性、どこからアウト?判例から考える判断基準」も併せてご覧ください。


AI音楽著作権はグレー|類似性リスク理解はじめの第一歩


AI音楽を配信する前に、まず理解すべきは「そもそもAI音楽に著作権はあるのか?」という根本的な問いかも知れません。
文化庁が2024年3月に整理した見解をベースに、実務的にどう考えれば良いかを見ていきましょう。
なぜAI音楽の著作権は曖昧?
AI音楽の著作権を考えるとき、最初の壁となるのは「著作物とは何か」という定義です。
著作権法第2条1項1号では著作物を次のように定めています。
思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
続く2号では「著作者」について「著作物を創作する者」としており、ここで想定されているのは「人間」の思想や感情がクリエイトされることです。
この前提が無いものに関しては、どんなに完成度の高い音楽でも、法的に著作物とは認められないと言えるでしょう。
文化庁が令和6年3月に公表した「AIと著作権に関する考え方について」でも、AI生成物が著作物となるかどうかは、人間の創作的寄与の有無で判断すると整理されました。
AIにプロンプトを入力して生成させただけでは、その「寄与」が十分でない場合があるわけです。
プラットフォームの見解は?
また、SunoやUdioといったAI音楽生成サービスの利用規約でも似た立場を明示しています。
例えばSunoは「有料プランの利用者に生成物の権利を譲渡する」としつつも、同時に次のように記しています。
機械学習の性質上、著作権が発生するかは保証しない
言ってみれば、「あなたに譲渡はするけれど、そもそも著作権が発生しているかどうかは別問題ですよ」というスタンスです。Udioも同様に、AI生成物の法的権利が自動的に発生するとは限らないとの注記を設けています。
加えて、文化庁の整理自体は「行政見解」であり、法的拘束力はありません。最終的な判断権限はなく、「文化庁がこう言っているから安全」とは言えないのが現実です。
そのためAI音楽を扱う上では、まず判断の余地が残るグレーゾーンがあるものだと認識することが肝心です。
「プロンプト調整」では著作物にならない?
AI音楽生成によくありがちな誤解として、「プロンプトを工夫すれば著作物になるのでは?」という考えがあるでしょう。ただプロンプトをいくら調整しても、それ自体に著作物性は認められません。
なぜなら、著作権法が保護するのは「表現」であり、プロンプトはあくまで「指示」に過ぎないからです。文化庁の整理でも、プロンプト操作のみでは著作物性が認められにくいと明記されています。
例えば次のような2つの工程を比べると、違いが見えやすいでしょう。
❌ プロンプト調整 → AI生成 → そのまま公開
└ 著作物性:認められにくい
✅ プロンプト調整 → AI生成 → DAWで編集・調整 → 公開
└ 著作物性:認められる可能性(人間の創作部分)
編集と調整が創作の分かれ目になる?
著作物性が生じる可能性があるのは、AI出力に自身で編集や調整を施し、創造性を反映させた場合です。例えばDAW上で各パートの音量バランスを整えたり、メロディラインを書き換えたり、複数音源を組み合わせたりといった行為です。
これらは人間による「創作的表現」として扱われる余地があるため、その部分が著作権の対象となる可能性があります。
結局AI音楽制作は、プロンプトではなく仕上げ段階で創造性が宿るということかも知れません。AIが出してきた素材をどう活かして、どこを削り、どんな音色でまとめるか。そこに人間としての感性が現れるのでしょう。
アメリカでも、米国著作権局が2023年及び2025年のガイダンスで、プロンプトだけでは著作者性を構成しないという見解が示されました。AIが自律的に作り出した部分については登録を認めていないとされます。
世界的にも「プロンプト=著作物」という理解は成立しにくいという流れです。
編集の痕跡が証明するのは?
プロンプト自体が著作物として認められなくても、記録しておくことには実務上の価値があります。それは「著作物性の証明」とするのではなく、プロンプトが「類似性の予防」や「意図的な模倣ではないことの補強材料」として有用だからです。
どんな指示でAIが生成したのかを残しておけば、仮に問題が生じた場合でも一定の説明根拠になるでしょう。
AI音楽の著作権は、現時点では明確な白黒がつかない領域です。それでもひとつ確かなのは、生成後の編集や調整こそが、人間の創作的寄与を形成し得るということです。
だから制作工程を残すことは、創作の記録であると同時に、予防法務的にも意味を持ちます。



したたかにくぐりぬけるわけですね。
AI音楽の類似性を完璧にチェックできるツールは無い


「既存曲と似ていないか確認したい」というのは、音楽クリエイターなら誰しも抱く不安の産物です。AIが生成した曲であればなおさら、「どこまでがセーフで、どこからがアウトなのか」をはっきりさせたいものです。
しかし結論から言えば、完璧なチェックは不可能です。その理由と、それでもチェックする意義を見ていきましょう。
類似性と依拠性はセット構成?
著作権侵害が成立するためには、単に似ているだけでは足りません。代表的な判例である「記念樹事件」で示されたように、著作権侵害には2つの要件が必要です。
①既存曲と「類似」していること
②既存曲に「依拠」していること
この両方を満たして初めて、法的に「侵害」と判断されます。逆に言えば、AIが偶然似た旋律を生み出した場合、「依拠」が認められなければ侵害とはならないと考えられます。これは人間が作曲する場合も同様です。
その一方で、AIが特定の楽曲を集中的に学習していたとすれば、依拠が推認される可能性もあります。AI音楽における類似性と依拠性の扱いは、今後の判例の積み重ねで形が定まっていく段階です。
次の記事はAI音楽を巡るものではありませんが、実際の判例でどう判断されたかのまとめです。ご参考まで。


「雰囲気が似てる」は類似にならない?
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月)でも、重要な整理が示されています。ここでは、「作風・画風が類似するにとどまり、既存著作物との類似性が認められない生成物は著作権侵害とならない」と明記されています。
AI音楽においても、雰囲気が似ているとか、あの作家っぽいというレベルでは、侵害とまではならないはずです。それでも、特定のクリエイターの作品だけを集中的に学習させた場合は、状況が少し変わってくるかも知れません。
その場合AIは作風ではなく、メロディやハーモニーなど楽曲の顔と呼べるような表現にまで踏み込んで生成している可能性もあり、ケースごとに異なります。
作風と表現の境界を平易に線引きすることはできません。
JASRAC公式ツールでも断定しない理由とは?
判断の難しさを物語るのが、JASRACが運営する楽曲情報管理システム「KENDRIX(ケンドリックス)」のスタンスです。
2024年3月に追加された「音源類似チェック機能(α版)」は、フィンガープリント技術等を使って類似楽曲を検出できます。しかし、JASRAC自身が「盗作や盗用であることを断定したり、独自性を保証したりするものではない」と明言しています。
むしろ、あえて類似度が低い結果も表示する設計になっており、利用者が自分の耳で判断する前提なのです。これは聴き逃しやチェック漏れを防ぎ、判断材料を広く提示するための工夫と言えるでしょう。



あえてキラーパスで千尋の谷につき落とすと。虎の穴真っ青じゃないですか。
Shazamなどの一般的なツールも同様です。完全に一致する音源があれば検出できますが、「なんとなく似ている」レベルのメロディは拾えないのです。
歌詞チェック系のCopyContentDetectorも、文字列一致を見るだけで「表現の似方」までは判定できない模様です。AI音楽における類似は、技術に頼った場合、検出できない領域が多いです。
断定を避けるのはなぜ?
結局のところ、類似性判断は技術の問題ではなく法的な解釈の問題です。どんなに高精度な検出技術を導入しても、「類似」と感じるかどうか、「依拠」があるとみなすかどうかは、最終的に人間のジャッジに委ねられます。JASRACのような著作権管理のプロですら断定しないという姿勢を取るのです。
よってAI音楽の類似性を完全に判定できるツールは存在しません。他方、チェックが無意味になるわけでもありません。
重要なのは、「チェックをした」という事実そのものと言って良いでしょう。クリエイターが自ら確認し、記録を残すというプロセスこそが、誠実さと注意義務を示す証拠になります。
AI音楽の類似性チェックを完璧にするのは不可能


完璧にチェックできないなら、やっても意味がないと感じるのは自然です。でも実際には、記録は完璧さではなく姿勢を示すものと言えましょう。いざというときに自らの正当性を裏づけてくれます。
率直に言えば、ほとんどの人はチェックも記録もしませんし、多くの場合はそれで回っています。わたし自身、最初のうち暫くの間はチェックなど何もしませんでした。
トラブルは一度もありませんが、今思えばどこか根拠のなさが、うしろめたく感じられたのは事実です。アーティストへの敬意を欠いたまま走るような感覚でした。



1曲チェックの間に5曲も6曲も生成されるのですから、ネコの手でも借りたいくらいですよ。
編集記録で「創作的寄与」を証明できる?
記録に価値があるとすれば、それは生成後に人間が手を加えた痕跡を残せることでしょう。文化庁の整理では、AI出力を編集・調整して創造性を表現した場合に著作物と認められる可能性があるとされました。
では、どんな編集が「創作的寄与」として認められる可能性があるのか、実務的な作業の一例を見ていきましょう。次のような編集と、その記録を残すことで、創作的寄与と既存曲を模倣していないことの説明材料になり得ます。
ボーカルとオケの分離・再調整:
「Stems機能」でボーカルと伴奏を分け、音量や定位(パン)を微調整。ボーカルを中央に寄せたり、オケを少し抑えて余白を作ることで、曲全体の印象が整理されます。
フェード処理で曲の表情づけ:
イントロをフェードインさせて「始まり」を演出したり、アウトロをフェードアウトで締めることで、自然な終わり方を作ります。AI出力の無音区間や唐突な終わりを整えると印象が変わります。
全体の音量・バランスの整え(ラフマスタリング):
AIの出力は強弱などダイナミクスが不均一なことがあり、コンプレッサーやリミッターで整える作業も効果的です。曲のまとまり感を出す工程として位置づけられます。
空間系エフェクトで立体感を調整:
分離したボーカルに軽くリバーブをかける、オケにディレイを足して奥行きを出すなど、クリエイターの判断次第で空間演出します。AI出力を曲として聴ける形に仕上げる工程です。
なおこうした作業には音楽AIの他にDAWなど追加のツールが必要になってきますが、今回は考えの整理にとどめ、技術詳細についてはまた別の場で説明します。
KENDRIXが改ざん困難性を高める?
先述したKENDRIXですが類似性チェック機能だけでなく、もうひとつ重要な機能があり、それがブロックチェーンによる存在証明です。
音源ファイルをアップロードすると、ハッシュ値などユーザー情報がブロックチェーンに記録されます。これにより「いつ誰がその音源を作ったか」が改ざん不可能な形で証明できるわけです。類似性チェック結果も同時に保存されるため、チェックを実施した証拠としても機能します。
もっとも、この存在証明は著作権の発生を保証するようなものにはなり得ず、法的判断を任せられるものではありません。しかしもし他のクリエイターから「こちらが先に発表していた」「あなたが後から作ったのでは?」と疑われた場合、ブロックチェーン上の記録による反証が可能になるでしょう。
2025年4月には、KENDRIXがソニー系パブリックブロックチェーン「Soneium」に移行し、第三者による検証が可能となりました。これにより、従来のプライベートチェーンに比べて耐改ざん性と透明性が大幅に向上しています。



わたしも透明なままでいたかったですよ。
不当な削除や停止要求に対抗できる?
記録にはもうひとつ使いどころががあり、それは根拠の薄い削除要求に対して冷静に対応できることです。
DistroKidやTuneCoreから配信停止通知があったとしても、当然ながら裁判所が下した裁断などではありません。プラットフォームがリスク回避のために削除を促す場合も考えられ、法的に問題がないなら、反論の余地はあります。
すなわち、意図的な類似ではなかったことを示す材料があれば、交渉しやすくなるかも知れません。
プロンプト記録や生成日時、編集履歴、KENDRIXの類似性チェック結果、ブロックチェーン登録証明などがあると、根拠のない要求に対抗できるでしょう。
AI音楽を透明に|類似性を信用に変える


チェックも記録も、必須ではありませんが、やっておくと音の響きが変わるものです。音楽AI時代の創作は、誰にどう届くかの整備に近いのかも知れません。
合理的注意が信頼性デザインになる?
KENDRIXやCCDは「証拠」にはなりますが、それだけで聴き手の信頼を得られるわけではありません。
誰もがAIを使う時代だからこそ、どう残すかが個性になります。生成日やプロンプトを記録しておくだけで、自分の音を大事にしている人だとリスナーには伝わるでしょう。
「この曲はこういう意図で作った」「このプロンプトでこんな音が出た」と経緯を残しておくことが作品への責任になるし、互いに顔を知らないオーディエンスとAIクリエイターという間柄に信頼性を築くのだと思います。
まとめ
ここまでAI音楽の類似性リスク備えについて見てきました。
大切な作品といっしょに手順も残せば、AI時代におけるクリエイターの信頼を支えるベースになっていくでしょう。完璧である必要はなく、不安な曲は優先的に確認して記録し、それを積み重ねれば十分な備えになるはずです。
次のパートでは、わたしがLLMに頼んで作ったプロンプト記録用ツールを公開しますので、もしよろしければご利用ください。
付録:AI記録補助ツール
AI音楽制作のプロンプト・画像・記録を一元管理するブラウザツール「強襲!Artificial Intelligence!ープロンプトの謎ー」を無料で公開しています。
プロンプト・ネガティブプロンプト・生成画像を記録し、検索・バックアップが可能です。インストール不要で、HTMLファイルをブラウザで開くだけで使えます。
ブラウザのデータをクリアすると記録が消えるため、「💎JSON完全バックアップ」機能で定期的にバックアップを取得してください。
詳しい使い方は説明書をご覧ください。
このツールは無償で提供しており、データ消失等について作成者は責任を負いません。
\ AIプロンプト保存ツール /
便利です!でも必ずバックアップとってください!
説明書
https://gyouseisyoshi-oomoto.com/wp-content/uploads/2025/10/tool_manual.pdf
参考データ
文化庁|AIと著作権に関する考え方について(令和6年3月15日)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
https://laws.e-gov.jp/law/345AC0000000048
KENDRIX|公式サイト
https://kendrix.jp/
JASRAC|音源類似チェック機能α版リリース情報
https://www.jasrac.or.jp/information/topics/24/240305_kendrix.html
Suno|Terms of Service
https://suno.com/terms
Udio|Terms of Service
https://www.udio.com/terms-of-service
Shazam
https://www.shazam.com/
CopyContentDetector
https://ccd.cloud/
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