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AI音楽が削除されるワケ|あるチャート入り楽曲に起きた話

AI音楽が削除されるワケ|あるチャート入り楽曲に起きた話
よくある疑問

Q.AI音楽が削除されるって、珍しい話なんですか?

A.決して珍しくはありません。多くの場合、問題になるのは「違法かどうか」ではなく、「どう受け取られ、どう流通したか」です。

チャート入りしブレイク中のAI音楽が、配信プラットフォームから削除されたという事例があります。昨年来、折に触れ話題になっていました。

著作権侵害なのか、なりすましなのか、AI音楽はやはり危険なのか。さまざまな意見が飛び交っています。

ただ、AI音楽の制作や配信では、最初から「これは危ない」と分かるケースばかりではありません。むしろ多くは、公開してしばらく経ってから、評価や解釈が別の方向へ動き始めます。

この記事ではAI音楽で判断が遅れやすい構造と、問題が後から表面化する理由を整理します。

いくまささん

わたしもワンテンポ遅いとよく言われますね。

この記事でわかること
・AI音楽は、いつ削除リスクが表面化しやすい?
・著作権侵害とは別に、誤認・なりすましが問題になる?
・バズる前後で、なぜ判断が遅れやすくなる?
・AI音楽をめぐるルールは、業界全体としてどこへ向かう?

本記事は個人調査の共有であり法的助言を目的としていませんのでご了承ください。

目次

なぜAI音楽の楽曲削除がニュースになった?

2025年10月、英国のプロデューサーユニットHaven(ハリソン・ウォーカー氏とジェイコブ・ドナヒュー氏、以下敬称略)がリリースした楽曲「I RUN」は、多くのリスナーの視聴でバズりました。

しかしその後、問題が表面化します。

Haven:I RUNに関するメモ
  • TikTokで再生数1.95億回を記録
  • 2025年11月中旬、UK Official Chartsの週間速報(Midweek)9位、ダンスチャート8位

問題実例 | 英国シンガーに似た生成楽曲

制作者のウォーカーは、音楽生成AI「Suno」を使い、まず女性ボーカルの声を加工しました。プロンプトは「soulful vocal samples(ソウルフルなボーカルサンプル)」としています。特定のアーティスト名は入れていなかったわけです。

ところが出来上がった声は英国のR&Bシンガー、ジョージャ・スミス(Jorja Smith)の歌声に酷似していました。

Havenのプロモーションには#jorjasmithというハッシュタグが使われ、多くのリスナーが「ジョージャ・スミスの新曲?」と誤認、ジョージャ・スミス本人がこれを否定する事態になります。

さらにジョージャ・スミスの所属レーベルFAMMによれば、Haven側はTikTokでのバズ後、「ジョージャ・スミスをリミックスに起用したい」と打診してきたといいます。FAMMは「誤認を利用して正当化しようとした」としてこれを拒否。

問題実例 | プラットフォームのリスク管理

その後、Spotifyが楽曲を削除します。

理由はアーティストのなりすまし(impersonation)。これはSpotifyが2025年9月に強化したAI保護ポリシーに基づきます。そうは言っても、著作権侵害の確定判決が出たわけじゃなく、プラットフォームであるSpotifyがリスク管理で判断したものです。

Havenは人間の歌手ケイトリン・アラゴンを起用して再録音し、改めて配信しました。今度は削除されず総合チャート10位、ダンスチャート1位を記録しています。

いくまささん

英語とカタカナばかりで目がチカチカしますね。

問題構造 | AI生成特有の造り

著作権法上、問題になり得るのは、いわゆる「パクリ」なのかどうかです。ただ、この点はAI音楽の場合、少々ややこしくなります。

日本の著作権法の世界では「似ている」だけでは足りず、事前に知っていたか、それを参照して作ったかという「依拠性」が問われます。この考えは日本だけでなく英国でも、ほぼ同じ構造で採用されています。

ところがAIを使った制作では、この問いはそっくりそのまま当てはまりません。制作者自身が、特定のアーティストを参照していないとしても、AI自身がどのような音をもとに生成したのか、正確に説明することは難しいのです。

実際、Havenは「ジョージャ・スミスの声を真似しようとしたわけではない」と主張しており、プロンプトに名前は入れていませんでした。

現時点で裁判が起こっているわけではなく、著作権法上の問題にも発展していません。プラットフォームであるSpotifyが独自のポリシーに基づき楽曲の流通を停止した、という段階にとどまっています。

依拠性 ≒ 英国法 copying, causal connection
類似性 ≒ 英国法 substantial part(質的類似)

ひとくちメモ

結局のところ、I RUNは「違法と確定する前に、誤認を招くリスクによって市場から降ろされた」というケースです。AI音楽では、そういうことが起き得ます。

今回の件は、その分かりやすい例になったのかも知れません。

ですが、問題は楽曲そのものより、周囲の環境にあると言えるでしょう。なぜ今、こういう事態が起きやすいのでしょうか。

なぜ今、AI音楽で削除リスクが顕在化している?

ここ数年、音楽AIを巡るトラブルは増えたように見えます。

でもそれは、ひとつの原因が突然ボンっと爆発したものじゃなく、複数の要因が一気に伸びたと考えるべきでしょう。

AI技術の進歩やビジネスの拡大、法制度の遅れなども一因です。別々で動いていたものが、同時期に蠢きだしたかのような。

いくまささん

つくしの子みたいですよね。

問題構造|増えるAI音楽、追いついたルール

2024年6月、RIAAはSunoやUdioを相手取って訴訟を起こしました。このニュースでは「AI音楽が違法」と受け止められがちでしたが、実際に争われたのはそこではありません。

問題にされたのは、生成された楽曲が似ているかどうかではなく、AIが何を材料に学習したのかというポイントでした。

学習データの問題と生成物の問題は別物であるという線が、はっきり引かれたのです。AI音楽がダメというより、何が論点なのかが明文化されたと言えるでしょう。

問題構造|「学習データ」と「生成結果」の混同

その流れを受けて、2025年11月、Warner Music Group は Suno と和解し、パートナーシップを結びました。

一見すると「レーベルがAIを受け入れた」ようにも見えますが、中身を見ると限定的です。

合意内容
  • 未許諾の学習モデルは廃止
  • アーティスト側のオプトインを前提とする
  • 使用にはロイヤリティが発生

これはAI音楽の自由化ではありません。排除するのは困難だから、管理できる形に押し込めたという結果です。

「誰の音を、どのように使うのか?」といった条件を曖昧にしている限り先へ進めず、音楽業界全体が、そのように認識し始めたと言って良いのかも知れません。

法的位置づけ|著作権と「なりすまし」

一方で配信の現場に立つ Spotify が独自のポリシーで問題視したのは、また別の点でした。Spotifyが前面に出したのは著作権でもAI利用でもなく、なりすまし(impersonation)です。

なりすまし例
  • 本人が歌っているように誤解される
  • 実在アーティストの名義や声を連想させる
  • 誰が作ったのか分からないまま流通する

こうした状態そのものが、プラットフォームにとってのリスクになりました。問題は音楽の出来ではなく、「誰かの作品だと誤認されるか否か」 に移ったわけです。

実務的示唆|誤認防止を求めるステージ

よって、トラブルが急増したのではなく、AI、権利者、プラットフォームがそれぞれ別の基準で線を引いていたところ、そのズレが同時に見えだしたような状態です。

そうなると、次に問われるのはAI技術を使った使わないでは無く、作る側がその線を理解していたかどうかにシフトしていくはずです。

では、その線を踏み越えないために、AIクリエイターは何をしておくべきなのでしょうか。

AI音楽の制作現場、判断はどこで遅れる?

よくある疑問

Q.結局これは、やっちゃいけなかった話ですか?AIは悪いヤツですか?

A.そうは断言できません。後から見れば「避けられたかもしれない」と言えますが、制作時点で同じ判断ができたかどうかは別問題でしょう。また全て一律に悪だとすると、文化や技術の育て方を考える機会が、摘み取られるかも知れません。

後から結果だけ見れば「言わんこっちゃない」と思えるかも知れませんが、では同一の条件下で誰しもがブレーキを効かせることはできるのでしょうか。

この章では正しい行動などではなく、判断が揺れる場面で何が見えにくくなるのかを見ていきましょう。

問題構造|誰もバズる前は止めてくれない

制作段階では、問題はほとんど見えないのが普通です。音源は完成し、聴いた感じも悪くない。それどころか周囲から「いけそうですね」「伸びるかも」と言われる。

この時点で「真似している」「誰かになりすましている」なんて感覚は、まず生まれないと思われます。そして問題が起きる前は自他共に止める理由が見つからないもので、悪意があったとは言い切れません。

むしろ多いのは次のような状態でしょう。

作品を世に出す前によくある感覚
  • リスペクトするアーティストをオマージュしたい
  • 生まれ育った環境からできた楽曲だ
  • 似た曲があるとは思えない
  • そもそも誰かに似せる意識など皆無

問題構造|意図と評価のすれ違い

有名アーティストでもなければ、公開直後にはだいたい何も起こらず、バズることもクレームが入ることもありません。制作者は次の作業に移るものでしょう。

ところがリスナーの受け止め方は少々異なる場合があります。この声誰かに似てないか、本人じゃないのか、など。

そうした違和感は、コメントやSNSで共有されるうち、制作者の知らないところで次第に輪郭を持ち始めます。気づいた時には、意図の説明が届かない場所で、評価だけが進んでいます。

いくまささん

金魚の尾ヒレがシッポになる感じでしょうか?

実務的示唆|評価が動いた後の現実

評価が動き始めると、できることは限られます。全てがポジティブな評価なら嬉しいし、もっと前に進みたいところですが、そうとはならないものでしょう。

この段階では「そういうつもりはなかった」「技術的には問題ない」といった説明は、ほとんど届かなくなっています。聞かれる前提が失われているからです。

世に出た楽曲について、プラットフォームは誤認有無の分析と判断に追われ、リスナーや業界団体はそれぞれの立場や考え方で動き始めます。制作者の意図というものは、その判断材料の中心になりません。

だから選択肢は、誤解を招いたポイントを説明することであったり、必要に応じ発表物を是正することしか残らないはずです。次に評価されるとするなら、ここでどう振舞ったかになるでしょう。

実務的対処法|公開前チェック習慣

では、どの段階であれば、踏みとどまることができるのでしょうか。公開前は気持ちが前のめりになり、「このまま出してみよう」と思うのは自然です。

実際まごついている時間なんてもったいなく、今すぐにでも公開したいところですが、あとワンクリックを残すだけのところが最後のチェック可能ポイントになります。

有名な誰かが歌っていると思われないか、説明なしで流れた場合に誤解は起きないか、歌詞に有名なフレーズを使っていないかどうか。

完全に防ぐことは難しいですが、公開前に一度立ち止まる習慣があるかどうかで、その後の選択肢は変わってきます。

100%完璧にチェックすることはおそらく不可能ですが、最低限できるチェックについて次の記事でまとめています。ご参考まで。

AI音楽は逆風で終わるのか

SpotifyはAIを排除したのか

Spotifyが2025年9月に公表した方針には、AIコンテンツへの開示義務化と、アーティストへのなりすまし禁止が明記されています(Spotify|Artificial Intelligence Policy、確認日:2025-09-25)。

7,500万曲規模の削除があったとも伝えられていますが、Spotifyの公式方針の上で「AI音楽の一律禁止」という文言は存在しません。「排除」というより「整理」に近い動きです。

メタデータに虚偽のない作品、なりすましのない作品は、依然として配信できる状態にあります。規約が厳しくなったというより、曖昧だったルールが明文化されたと言えるでしょう。

これは音楽AIクリエイターにとって、むしろセーフ領域の輪郭が見えてきた風でもあります。

IRUNは消えたのではない

AI版Havenの楽曲がSpotifyから削除されたのは事実ですが、話しはそこで途絶えませんでした。

Kaitlin Aragonをボーカルに迎えた再録版は、UK Official Chartsで総合10位ダンス部門1位を記録しており(UK Official Charts、確認日:2025-11-25)、楽曲は形を変えて成功しています。

IRUNのケースを「AI音楽の失敗例」として語る向きもあるようですが、逆にも解釈できます。削除という逆風を受けながら、戦略を変えてチャートトップまで届いたのだと捉えると、注目すべき成功例ではないでしょうか。

いくまささん

何度でもよみがえるわけですね。

「入れ替わるもの」としての側面

「AIから人間ボーカルへの交代」について、広く考えたらこれはおかしいことではないように思えます。

音楽業界では昔から、契約トラブルや体調不良、スキャンダルなどの事情で、歌手が途中で変わることがありました。プロデューサーが曲を先に作り、別の歌い手が完成させるという形も珍しくありません。「歌手を差し替える」という発想自体は、AIが登場する前から存在していたのです。

昔は時間やコスト、そして地理的な条件がネックでしたが、今の御時世そうしたハードルは大幅に低くなりました。

AIは本当に「完成品」なのか

IRUNのケースから見えてくるのは、AI音楽を完成品として扱うと摩擦が起きやすい、ということです。「コンセプトを素早くかたちにするスケッチツール」として使う立ち位置の方が、現状の流れとズレが生じにくいのかもしれません。

AIで曲の骨格を作る→ヒットそうなコンセプトを見極める→人間のボーカルや生バンド、DAW等々で完成させるという流れが、現時点で安定しやすい気がします。

AI音楽は終わらず、ただ、役割が変わりつつあります。人間の代替ではなく、発見を助けたりインスピレーションを加速させるツールとして使う方が、法的リスクも小さく、世界中の音楽業界の流れとも合致します。

逆風に見えたものが、使い方の再定義を促しているだけかもしれず、決して後退ではないはずです。

参考データ

Spotify Newsroom|Spotify Strengthens AI Protections for Creators
https://newsroom.spotify.com/2025-09-25/spotify-strengthens-ai-protections/

Warner Music Group|Warner Music Group and Suno Forge Groundbreaking Partnership
https://www.wmg.com/news/warner-music-group-and-suno-forge-groundbreaking-partnership

RIAA(米国レコード協会)|Record Companies Bring Landmark Cases for Responsible AI Against Suno and Udio
https://www.riaa.com/record-companies-bring-landmark-cases-for-responsible-ai-againstsuno-and-udio-in-boston-and-new-york-federal-courts-respectively/

UK Official Charts|Haven – Artist Profile
https://www.officialcharts.com/artist/10508/haven/

Suno|Terms of Service
https://suno.com/terms-of-service

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この記事を書いた人

大本 雅史(おおもと まさし)|行政書士(2019年登録)
遺言相続・在留資格・開発許可等業務を経験後、AI法務整理家へ転身。
著作権法を中心に「公開して大丈夫?」「後で起こるリスクは?」などの場面に、一次ソースの根拠を持って答えることを方針としています。

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